ぼくの道具 石川直樹

第四回 靴下

 靴下にすぐ穴があく。かかとのすり減りが早いのは、自分の歩き方がおかしいのだろうか。かかとの次にすり減りが早いのは、足の指の付け根の下にある、最も地面と接触するあの部分だ。あそこを何と呼べばいいのかわからないのだが、かかとの次に減りやすいのはとにかくその部分である。
 2000年に北極から南極へ旅した頃から、スマートウールの靴下を愛用している。素材まで研究したことはないが、ウールと化繊の良い部分を組み合わせた靴下だと思い込んでいる。実際スマートウールは、外国人の多くの登山家にも使用されており、極地における信頼性は絶大である。
 問題は、使うたびにどんどんすり減っていってしまうこと。いつも皮膚が見えるくらいまで履きつぶしてしまうのだが、それはスマートウールの問題ではなく、ぼくがハードに履きすぎているだけだろう。
 旅先では、靴下を酷使する。同じ靴下を洗濯しながら何度も何度も履く。だから指の跡が靴下に残る。だから右と左を交互に履いて、少しでも摩擦を減らしたり涙ぐましい努力をしていたこともある。
 靴下を洗濯した後、ストーブの上で乾かしているときに、熱で穴をあけてしまったことも何度かある。まだ新しいものだったので捨てるには忍びなく、継ぎ当てをして今も使っているのだが、あのときは悲しかった。
 ぼくは継ぎ当てをした靴下をよく履いている。そんなことを公言するといかにも貧乏な人のように思われてしまうかもしれないが、本番でなければそれで十分なのだ。本番というのは、登山やハードな移動のことを指す。本当に吸湿性や乾燥性が試されるとき、ぼくは新品に履き替える。靴も重要だが、靴下はさらに重要な道具である。綿のソックスなどを使おうものなら、高所ではあっという間に凍傷になるだろう。
 トレッキング程度だったら靴下は一枚だけだが、高所登山では薄いアンダーソックスの上に、太めの靴下を履いている。さらに8000メートル峰のアタックに際しては、薄っぺらい五本指ソックスを一番下に履き、その上にアンダーソックス、その上にスマートウールの極厚を履いたりもする。今のところ、それで凍傷になるなどの不具合はないので、これからもそのように履き分けていくと思う。
 無論、靴下の材質や厚みにこだわるのは旅先だけだ。普段、街で履く靴下は、知り合いからもらった柄の入った普通のものを履いている。ぼくにとって裸足に靴を履くという石田純一さんスタイルなどもってのほかである。長く歩くため、凍傷にならないため、靴の機能と足の機能を最大限に発揮するためにも、最良の靴下を選びたい。
 日本のブリコルール、猪谷六合雄(いがやくにお)は、自分に合う靴下がないと言って、晩年は靴下作りに執心していた。猪谷さんは日本で初めてスキーを使って雪上を滑った人でもある。山を知り尽くした彼が靴下にこだわったその気持ち、ぼくにはわからないでもない。




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実際に著者が使用しているソックス。
(右)一番下にはくアンダーソックス、その上に太いスマートウールを履く(中)登山本番用のスマートウール(左)穴を補修した別のソックス。まずはかかとに穴があき、次に親指周辺が薄くなっていく。

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