ぼくの道具 石川直樹

番外編:ローツェ登頂直前・特別インタビュー(後編)

前回に引き続き、エベレスト登頂を控えた石川さんに、登頂についてのお話、今の心境についてお話を伺います。


◯カトマンズに入ったあとはどんなスケジュールですか?


カトマンズで、準備したり買い物したり他のメンバーとあったりと、2日くらい滞在して、そのあとルクラっていう村にヘリで飛んで、ルクラからエベレスト街道っていう道を歩いてベースキャンプに向かいます。このエベレスト街道をいそぐと高山病になっちゃうんで、2週間くらいかけてゆっくりと体を慣らしながら行きます。で、ベースキャンプに到着したあとは、テント生活が始まります。


◯エベレスト街道ではどんなところに泊まるんですか。


街道沿いに、バッテイという茶屋があって、そこの簡易なベッドの上に寝袋を敷いて寝ます。チームのメンバーと毎日一緒にご飯を食べます。


◯ベースキャンプに到着したあとは?


ここからが長いんです。たとえばベースキャンプから少し戻った場所に、ロブチェ・ピークという山があって、イーストとウエストという二つのピークがある6000メートルちょっとの山なんですが、そこに登って体を慣らしたりするんです。1回登ってからまたベースキャンプに戻って、少したってからもう一度ロブチェ・イーストに登って、さらに頂上で2、3泊するとか……。


◯じ…焦らしますね。


とにかく体を慣らさないと。そしたら、またベースキャンプに戻り、今度はキャンプ1、キャンプ2までいって、また戻り、さらにキャンプ2まで行って2、3泊して戻ったりして、それでようやく頂上に行く準備ができる。だからトータルのスケジュールが2ヶ月半もかかるんです。


◯体が慣れるっていうのは、どういう感じですか。


たとえば5200メートルのベースキャンプにいきなり行くと、頭が痛くて死にたいと思うでしょう。それが普通に東京で過ごすような感じになるのが、慣れるっていうことです。順応するってことですね。


◯日本でもトレーニングをしてるんですか。


してないですね。ただ、ブータンで4000メートルの山に登ったり、2~3週間前にペルーで6700メートルの山に登ったり、国東半島で山歩きをしたり、そういうことが僕のトレーニングといえばトレーニングかもしれません。


◯ベースキャンプでは、普通に朝起きて、夜眠る生活ですか。


そう、変わらないですね。朝は、何時かな、6時半とか7時ぐらいに起きて、夜は日が暮れてご飯を食べたら、それぞれ寝る。睡眠はたくさん取らないといけないけど、取りすぎると呼吸が浅くなって頭が痛くなるから適度にという感じです。


◯慣れると眠れるものなんですね。


余裕で眠れますよ!


◯ベースキャンプでのテント生活は、ひとつのテントを数人でシェアしたりするんですか。


いやいや、そんなふうにすると、2ヶ月もいたらノイローゼになっちゃうから、ひとりずつ。でもご飯を食べるときは、みんな一緒です。


◯どんなメンバーと一緒になるのかは、どうやってわかるんですか。


出発前に隊長から、今回こういうメンバーだよって連絡が来ます。


◯キャンプ中のご飯はどうしてるんですか。


ベースキャンプには、コックというか、ちょっと料理のうまいおじさんという感じのひとがいて、ご飯を作ってくれます。あとはキャンプ2に、料理担当のシェルパの若者がいるくらいかな。


◯食欲は?


やっぱり、だんだんなくなります。上のほうのキャンプでは沸点が低いから、何を作ってもそんなに美味しくない。スパゲティー作ってもびちゃびちゃだし、ご飯作っても芯が残るみたいな。まあでも、僕みたいな何を食べても美味しいと思えるひとは、ぜんぜん大丈夫。食べられるだけでありがたいことです。食通っていうか、繊細なひとは、ちょっと耐えられないかもしれませんね。


◯いつも持っていく食べ物はありますか。


アルファ米と、ゼリー飲料と、ふりかけとかかなあ。向こうにないものを持ってきます。


◯重い荷物はどうやって運んでるんですか?


ベースキャンプまではヤクに運んでもらいますね。ヤクはいいですよ、本当になんでも運んでくれる。ただ人間がのると暴れるんです、荷物は大丈夫ですが(笑)。


◯戻るのはいつごろ?


6月のヒトケタ台の予定。でも去年みたいに登れないことがわかったら、5月くらいに早まるかもしれませんね。何があるか、行かないとわからないので。


◯そういえば、いつも帰ってくるとものすごく日焼けしてますよね。

そう……。紫外線が半端ないですから、日焼け止めを塗らないと、もう痛いどころじゃなくて、火傷しますね。氷や雪の反射がすごいから、日焼け止めは強いやつがいいです。でもお風呂には頻繁に入れないから、いま水で簡単に落ちるやつを探してるんです。それが見つかったら、連載で書きたいのですが(笑)。


◯読者の皆さん、もしSPF60以上&水で流せる日焼け止めをご存じの方は、ぜひ編集部にご一報ください!
それでは最後に無謀な質問を……。私たちもエベレストに挑戦することができるんでしょうか。


できますよ。でも経験が必要ですね。たとえば、エベレストに行きたいっていう目標をたてたら、まず日本でいろいろな山に登ってみる、次に雪山に登ってアイゼンやピッケルの使い方を覚える、その次に6000メートル級の山に登って高所の気持ちを理解する、そうしたら8000メートル級のちょっと簡単な山に登る、そのあとがエベレストという感じです。
でもベースキャンプまでは、誰でも来られるし、『地球の歩き方』にも出てるぐらいだから、ぜひみんな来て欲しいと思います。本当に楽しくて、かけがえのない経験ができるはずです。




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今回は番外編のため道具はお休み。そのかわりに今回石川さんが予定しているローツェ登頂のルートを紹介します。4月25日現在、ロプツェBCに到着。

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