ダブルトーン

     1


 目を醒ましたときに、今日は自分が誰なのかわかる。目覚まし時計の音は同じだ。だが。
 自分の隣に、気配を感じるか否か。
 気配があった。夫の洋平はまだ眠っている。
 ということは、今日もわたしは田村裕美(ゆみ)だということだ。
 この数日は田村裕美である日が続いている。
 もう、朝の六時半だ。
 急いで顔を洗い、朝食の準備と洋平のための弁当をこしらえた。
 朝の七時の時報と同時に、洋平を起こす。寝惚けた生返事をするものの、洋平はなかなか起きてはくれない。起き上がったら、いつも、何故もっと早く起こしてくれなかったんだ!と愚痴りながら、家を飛び出していくくせに。そう心の中で呟きながら、裕美は夫の肩を揺すった。
 ほどなくして洋平は身を起こす。それから食事をすませて服を着るまでに、三〇分を費やす。バスに間に合うだろうかと案じつつ、今夜は営業会議で食事ありだから晩飯はいらない、と言い残して飛び出していった。
 これは、ユミが田村裕美であるときの、判で押したような一日の始まりなのだ。
 それから、裕美は洗濯と掃除を手早くすませる。その頃に、娘の亜美が目を醒ます。亜美は聞きわけのよい子だ。女の子だからかもしれない。裕美のお手伝いに何かやることはないかと、いつも注意をはらっていてくれる。
 裕美は、九時一〇分前にマンションを出る。亜美を連れて保育園まで歩いていくが、九時ちょうどには、春日しいのみ保育園に到着する。担任の棚田るみ先生に、亜美のその朝の機嫌を伝えた。手を振る娘に笑顔で手を振り返し、そのまま電車通りを熊本駅へと向かう。あわただしい時が過ぎ、肩の荷が下りる。
 一日のうちで、気が静まる貴重な時間なのだ。熊本駅ビルの二階の喫茶店でコーヒーを注文する。家で飲むコーヒーよりも確実に美味しいし、なによりも落ち着いて考えごとができる。電車に乗るまでの、三〇分の空白の時間でしかないのだが。
 一〇時半から四時までは、裕美はパートの仕事に出ている。パートといっても、上熊本駅前にある山根税理士事務所の事務の手伝いだ。結婚前は、そこに勤めていた。裕美が退職後も、人員を補充せずにやりくりしていたらしい。所長に、「手伝ってくれるのはいつでもOKだよ」と言われていたので、亜美が保育園で預かってもらえるほどになってから、また税理士事務所にパートで顔を出すようになった。
 洋平とも、もともとは所長の友人の会社社長が主催する若者向けの地域交流会で出会ったのだ。
 五年前に結婚し、二年前から一日の生活リズムがこのようになった。少女時代に夢見ていた結婚生活とは、大きなズレがある。
 その頃に考えていた自分の生活はこうだ。やさしくてハンサムな夫と、可愛い子供に囲まれ、庭に咲く花と仔犬の世話をして、午後はおいしいおやつや夕食を作って過ごす......。
 そんな夢は、小学校高学年から中学校、高校と成長するにしたがって剥げていったが、これほど夢のない日々とは思わなかった。
 娘の亜美のための進学費用を備えておく必要がある。それから、夫と自分の老後のための貯え。年金もあまりあてになりそうもないから、今から自衛しておく必要がある。
 裕美はコーヒーを飲みながら、ぼんやりと、そんな自分の生活方針を考えるのだ。とりあえず日々の生活は、そのようなことのために生きている。
 あまり楽しいこともない。このようなものか......という慣れは感じる。
 紺のスーツを着た女子大生らしい二人が、同じカウンターに座っていた。就職活動で、訪問先の約束までの、時間調節らしい。
 二人の会話が、自然に裕美の耳に飛びこんでくる。
 「どこも厳しいよね。電話しても、すぐに担当者が、今年は採用予定ありませんからって。口を揃えてるみたい」
 「やっぱり、都会に行かないと、採用厳しいのかしら。親が、絶対に許さないしねぇ」
 「素敵な生活力のある彼が、どこかにいないかなぁ。そちらで永久就職できたら、こんなあくせく苦労しなくていいのになぁ」
 「そんな相手は、じっとしていても見つからないわよ。とにかく就職決めてから、いい人を見つけなきゃ」
 そんな二人の顔を裕美は思わず眺めた。
 一人は、まだニキビがたくさんある。共通して表情に幼さを残していた。
 二人とも、結婚が女性のハッピーエンドと考えているようだ。そんな甘いものじゃないのよ!と心の中では思ったが、見ず知らずの二人に言ってやることもできない。
 とりあえず今日は、事務所の先月末締めの請求書を午前中に作って発送しなければ。午後は、近くの顧問先の永田商店の月次を点検に行く。そんな予定になっているなと考える。
 すべてが惰性のようだ。洋平はハンサムではないが、真面目だし、やさしい。ただ、面白みには欠けるが、それは贅沢な望みだと言うべきだろう。亜美のこれからは未知数だ。だが、次の子供を作る気には、あまりなれない。一人でも育児の大変さはわかった。
 亜美には十分な愛情を注いでやりたいと思う。それが母親としての務めなのだから。
 そんなとめどないことを考えることができるのも、この時間帯くらいのものだ。とりあえずの楽しみは、なにもない。
 それでもいいと裕美は思っている。
 それは、裕美にとっての強さかもしれない、と自分では思う。とにかく、自分が裕美であるときは、裕美という立場をまっとうするつもりでいる。
 喫茶店を出て、改札口を抜け、いつもの電車に乗った。
 税理士事務所のある上熊本駅までは、一駅なのだ。そして、出勤時刻の一〇分前には、本妙寺通りの職場に着くことができた。
 それからの数時間は、裕美にとっては、あっという間に過ぎる。基本的に裕美は昼休みをとらない。十二時半までは、事務所の伝票類に追われる。その日は契約顧客向けの請求書の作成。そして午後は四時まで、電卓と帳票を持って永田商店へ出かけた。裕美の点検業務は予定の五分前に終了する。裕美の集中力をもってすれば、彼女には一時間ほどにしか感じられないのだが。
 事務所に戻ると、所長から「頂きものがあるから」と新聞紙の包みを貰った。
 「なんですか?」
 「ああ。ガラカブの一夜干し」と所長が答えた。
 上天草にある土建会社の決算処理に行って、土産に貰ったそうだ。ガラカブとはカサゴのことだ。
 「甘塩だそうだから、早く食べてくれと言われた」
 「じゃ、先生、遠慮なく頂きます」
 昔から、仕事先からの頂きものは多いのだ。裕美は、所長に礼を言って、タイムレコーダーを押した。六十を過ぎて妻と二人暮らしの所長には、あまり多過ぎる食べものを頂くのも良し悪しなのだろう、と裕美は思う。
 事務所を出ると、朝とは逆の行動をとる。上熊本駅から熊本駅へ。そして、亜美を迎えに保育園へ。それから白川橋を渡って、娘と一緒にスーパーで夕食の材料を買って帰るのだ。自分用に一夜干しの頂きものがあるから、亜美のためのソーセージと、翌朝のためのパンと牛乳だけを買った。
 いつもならば、夫の洋平が帰宅する七時半頃に照準を合わせて、夕食の用意にとりかかるのだが、会議で夕食が出るのならば、その心配はなかった。
 今日は、手を抜いてもかまわない。亜美が大好きなソーセージと目玉焼き、それにトマトとキュウリとレタスのサラダを添える。それで大喜びをしたのだった。
 洋平が帰宅したのは、九時半を過ぎた頃だった。亜美は、すでに布団に入っていたのだが、父親の姿を見て、喜んで起きてきた。
 洋平はスーツを脱ぐと、亜美を膝に乗せたまま、「一杯、飲ませてくれ」と言った。
 「頂きものの一夜干しがあるけれど、肴に焼きましょうか」
 裕美がそう言うと、洋平は発泡酒のプルトップに指をかけたまま一瞬静止して、それから「いや。いい」と答えた。
 「一本では足りなくなる。ほどほどでいい」と言いながら、テレビのスイッチを入れた。
 洋平は、会社のできごとを話すということが、まずない。「家には仕事の話は持ちこまないよ」というのが、結婚前からの彼の主義だった。
 裕美は、つまみに柿の種を皿に入れて出した。洋平は黙ったまま、それをつまんで口に放り入れ、テレビ画面に見入る。ときおり亜美を右手でやさしくあやす。
 テレビではクイズ番組をやっていたが、面白いのかつまらないのか、洋平は反応を見せない。亜美が生まれるくらいまでは、もっといろんな話を夫としていたような気がする。しかし、裕美にとって、それはもう随分と前のことのようだ。
 洋平が発泡酒を飲み干したのを確認して、裕美は言った。
 「そろそろ、お風呂に入ったら」
 すでに裕美は亜美と風呂をすませていた。洋平の帰りが遅くなるときは、それが習慣になっている。
 「ああ」と洋平は立ち上がろうとした。亜美は父親の膝の上で安心できたのか、すでにうつらうつらと身体を揺らし始めていた。そんな娘を裕美は受け取り、布団に横たえた。
 洋平が風呂場へと向かうと、テーブルの上を片付けて、裕美も布団に入った。
 ああ、また一日が終わってしまった、と裕美は思う。風呂場から、夫の咳払いが聞こえた。洋平は長風呂だ。なかなか上がっては来ない。風呂から出てくるのは、自分が眠りに落ちてしまった後だろう。
 明日は、また今日と同じ一日の繰り返しが待っているのだ。明日も田村裕美である限りは。
 いや、ひょっとすれば、そろそろ明日は......。
 そんなことを、とりとめもなく考えていると、睡魔の領域にいつの間にか入りこんでいた。


     2


 目覚ましの音が鳴る。
 他人の気配は何もない。
 薄く目を開く。カーテンの隙間から、陽の光が漏れているのがわかった。
 四畳半の狭い空間。ベッドから身を起こす。
 何日ぶりだろう、と彼女は思う。
 今日は、田村裕美ではない。中野由巳(ゆみ)なのだ。何故、このようなことが起こるのかは、わからない。何年前からなのだろうか? ずいぶん前から起こっている現象だという気がするが、最近のような気もする。
 ただ、これだけはわかる。今日は家族の世話を考えなくていいのだ。
 顔を洗い、自分のためだけのフレンチトーストを作り、コーヒーで朝食とした。
 中野由巳は独身だ。水前寺の県庁近くのアパートに独り住まいしている。勤務先は、水道町にあるタカタ企画といって、広告代理店の下請けのような仕事をやっている。社長と専務だけで、あとは由巳が正社員というだけの小さな会社だった。
 広告代理店の下請けというと、いかにも泡沫な企業イメージだが、もう二十年もこの業界で商売を続けている老舗である。テレビCMの制作を頼まれれば、それを受けて、スタッフをかき集める。統計資料の調査も受ければ、さまざまなコンペにも、まめに応募する。高田社長と林専務のコンビは、よほど才能があるのか人脈が広いのか、運が強いのか信用があるのか、不景気だとぼやきながらも、堅実な経営を続けていた。だから、由巳は、同年代のOLの平均よりも、給与面では優遇されている。
 九時から五時までの勤務時間だが、そんな少人数の会社故に、そのときの仕事の受注内容によって、由巳の仕事内容は目まぐるしく変わっていく。あるときは、事務方をやらねばならないし、あるときはイベントに派遣する女子大生たちのリーダー役を務めねばならない。また、あるときは、コマーシャルのクライアントのお相手と、まったくルーティンワークが存在しない。気配りと気働きの能力が要求される日々だ。だから、五時の退社時間から大幅にずれこむことは、しょっちゅうではないにしても不定期には訪れた。しかし、それは由巳にとって不満ではない。いや、日々の仕事を満足して受け入れていた。目まぐるしいが、充実感に溢れている。
 心の隅で、ぼんやりと、ああ今日も変化の多い一日でよかった!と感謝している自分がいた。
 だが、それはあくまでもぼんやりと、である。それから、今日の仕事の予定に頭をめぐらせている。だんだんと裕美であった自分を忘れていく。
 今日は、何があったかしら。朝から、大学生のアルバイトが二十名、やってくるはずだ、と思い出した。アンケートの抽出リストを彼らに配り、アンケートをとる際の心得を説明しなければならない。送り出した後は、一件、顧客を訪問しなければならない。郷土料理店だが、そのホームページをタカタ企画が制作している。今回は、通信販売の内容を変更するに伴い、デザインもかなりリニューアルしたいというのだ。その要望の内容を正確に把握する必要がある。
 とりあえず、今、決まっている予定は、その二件だ。あと、もう一度来客の確認も必要だと思っている。
 そう考えていくと、昨日は、自分が田村裕美であったことが現実ではないような気がしてくる。ずっと昔から。当然のことながら、幼い日から自分は、同じユミでも中野由巳だったのだ。
 由巳は、天草の本渡にある旅館の娘として生まれた。熊本市内の県立高校に入り、熊本女子大に進学した。学生の頃は広告研究会に入っていて、タカタ企画のアルバイトをしていた。林専務や、その頃の事務をやっていた女性とも親しくなった。そのうちに就職活動を始めたが、あいにくのリクルート氷河期で就職先は皆無だった。だから、タカタ企画に就職が決まったのは、奇跡に近い。
 そのときの女性社員がたまたま、寿退社することになった。それで、彼女の推薦で林専務から由巳に声がかかったのだった。
 あと一学年早くても遅くても縁がない仕事だったなぁ、と思う。
 天草の旅館は兄夫婦がやりくりしている。由巳は、人に迷惑さえかけなければ好きに生きていい。そして、本当にこの人と添い遂げたいという人が出てくれば、その男性と結婚してかまわない。そんな風に言われて育った。
 由巳は、同世代の地方に住む女性の中では、自分ながら充実した生活を送っている方ではないかと思っていた。
 ただ一つのことを除いては。
 自分の心の中に、自分の思考と無関係な思考が存在していることに気付くまでは。
 その思考というのが、田村裕美のものなのだ。
 朝起きて、そんな錯覚を感じることが一番多い。昨日は、自分は自分でなかった......。
 裕美である自分は結婚している。幼い娘がいる。ぼんやりと夫の存在もわかる。
 も、今日の朝、自分は裕美でなく由巳でよかった、と思う。
 記憶の中にある自分は、もっとうんざりしてしまう生活を送っているような気がした。
 コーヒーを飲み干し、その日は、紺のジャケットを着た。アルバイトの学生たちを指導するのにふさわしいと思ったからだ。
 エチケット程度の薄化粧をして、アパートを出た。
 バスに乗り込んだときに、母親と幼い娘の二人連れを見て、ふっと亜美という名前が浮かび、幼い少女の笑顔が脳裏をよぎる。
 そのとき、由巳には、はっきりとわかるのだ。これは、田村裕美である自分の娘のイメージであると。
 何故そんな心像が浮かぶのか、理由はわからない。
 心の奥底で、何かが錯覚を起こさせているのだろうと、思うだけだ。
 自分の他に、もう一人のユミがいる。由巳は二十四歳だが、もう一人のユミ、裕美はもう少し年上のようだ。三十歳を超えているだろう。
 それが実在する人物なのか、由巳の妄想なのかは、よくわからない。
 あるときは裕美である自分をはっきりと意識できるのだが、次の瞬間、自分は何かの妄想に捉われていたような気がしてくる。
 だが、単なる妄想ではないのではないか、と思えることがあるのだ。
 半月ほど前に、上熊本駅近くの本妙寺通りに、ミニコミの広告で使うため、馬刺しの写真を撮りにカメラマンと行くことになった。同じ熊本市内だが、勤務先が市内中央部で、住まいが東部である由巳には、西にある上熊本駅近くは、あまり普段から縁のない場所だった。カメラマンの運転で本妙寺通りへ行き、目的の店より少し離れた駐車場に車を止め、そこから店まで歩いているときのことだ。
 既視感(デジャビュ)という体験は何度もある。しかし、それまでの既視感は、瞬間的なものだった。それなのに、そのときのデジャビュは、自動車を降りたときから、延々と続いたのだ。
 橋を渡ると、自然と視線が向き、無意識に「山根税理士事務所」と呟いている自分に気がついた。そして、その建物の入口には、「山根税理士事務所」の金文字が。思わず、由巳は立ち止まり、その文字に見入った。
 これこそ、まさにデジャビュと言うのか、と思った。そして、懸命に自分に納得できる説明を付け加えてみた。
 少し離れた場所から、山根税理士事務所の文字を見てしまっていた。それを無意識のうちに口にしたのだと。無意識だったからこそ、記された文字を再確認して驚かされた......。
 そういう解釈をしてみる。そういう解釈が一番、現実的なのだと自分に言いきかせる。
 それで表面上は納得できるのだが、どうしても他の可能性を思い巡らせる気持ちが心の隅に残り続けた。
 朝一の目覚ましの音を聞くときに、そんな光景が瞬時だけ蘇ってくることもある。すると、その日は、田村裕美ではないと知る。中野由巳なのだ。
 というわけで、いつも意識の底で、漠然と考え続けているのだ。なんの確信も得られないまま。??自分は、ひょっとして、二つの人生を生きているのではないのか、と。

 由巳は、水道町でバスを降りた。電車通りを渡り、手取天満宮近くのビルに入る。そのビルの三階にタカタ企画はあるのだ。郵便受けから新聞を取り、事務所へと入った。
 2LDKの一室が事務所であり、リビングが二間で、そこにデスクが三つと、応接台に椅子が据えられている。床にモップをかけ、机の拭き掃除をすませると、新聞をスタンドに綴じる前に、ニュースを確認した。主に取引先に関連した慶弔記事の確認と、メインニュースのヘッドラインだけに目を走らせただけだが。
 新聞に挟まれていた地元デパートのチラシを古新聞置き場へ持って行こうとして立ち止まった。
 〈キッズブランド夏物フェア〉と銘打たれていた。子供服の写真がいくつも載っている。子供のモデルが着ている服に見入りながら、「亜美のも、もう小さくなっているのよねえ」と口にしていた。
 「今......私、なんと言ったのかしら」
 自分で呟いたことを、もう忘れてしまっていた。そして、閃光のように浮かんできて消えてしまった幼女の顔を、もう一度思い浮かべたいと願うのだが、それはかなわなかった。
 未来の自分が結婚して生まれることになる自分の娘の姿を予知したのだろうか、とも考えてみるが、推理はそれ以上深くには進まない。
 九時を過ぎると、社長と専務が出勤してきた。
 ひたすら慌ただしい一日がスタートする。正直、余分なことを考える余裕もまったくなくなる。
 三人で、その日の行動予定を確認しあった。それから、おたがいの連絡事項に漏れがないか、この数日の業務の進捗把握などで、ミーティングは終了となり、社長も専務も自分の目的の場所へと、それぞれ散って行った。
 しばらくすると、事務所には、アンケートを集めに行くアルバイトたちがやってきた。地域ごとの用紙と抽出サンプル家庭の住所で分けたリストを担当アルバイトに確認させる。そして由巳の説明。
 アルバイト全員を送り出し、由巳は大きな溜息をついて、椅子にへたりこんだが、まだ、その日の仕事はスタートしたばかりなのだ。
 (つづく)



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