第3回 ゲッゲッゲッ、外道か? 男色は香りの中に −アリラン・プレスリーの朧げな告白(3)

先輩をめぐるドラマ―ハッテンしない韓流エピソードその2


 アリラン・プレスリーの意識はますます渡日すべしとその気持ちに強くかられた。
 そして、幼馴染みで、唯一の成功者であり、もし「在日」だったら、"隠しようのない顔"をした崔先輩に借金の申し込みに行くと、先輩は快く引き出しの中から鷲掴みした1000万ウォンを渡航費や、あちらでの生活、および仕事が軌道に乗り、生活にメドがつくまでの雑費などどうにかこれでやれと、キャッシュで貸してくれた。
 東京での仮の宿も、とりあえずの勤め先も、飛行機のチケットも総て手配が済んだ翌日、1000万ウォンを快く貸してくれた先輩から携帯に電話があり、息づかい粗く、「急いできてくれ、とにかく急いで!」と言う。先輩はこの数日、相当、幾度も大声を出した様で、声はガラガラだった。
 何があったのか、とにかく只ごとではなさそうだ。
 アリラン・プレスリーは地下鉄を乗り継いで、先輩のもとへ急いだ。
 が、いつもの如く、頭の中が何処かボンヤリしていて、まだそれが金銭に基づいた問題との発想は微塵も浮かばなかった。
 先輩の事務所のドアを叩くなり、赤ら顔を更に紅潮させた先輩が、
「お前、本当にすまんが、この前の1000万ウォンとあと少しでも色つけて、少しったってガキじゃねえんだから、そりゃあお前も今大事な時だと思うが500万ウォンでも色つけてくれ、いや、いずれ、というかすぐに解決して、そうしたらトータル2000万ウォンにしてお前に返すから、どうか頼む」
 そう、どちらかといえばいつも横柄な先輩は、懇願し、オマケに後輩のアリラン・プレスリーに頭まで下げた。
 こうなるとアリラン・プレスリーも先輩の言葉を信じ、1500万ウォンを急いで工面しなくてはならない。
 どうやら先輩の崔は新規開店した超高級レストランが経営不振で、金銭トラブルの渦中、その手形やら何やらに関してとにかく今、ありったけの現金を掻き集めている模様であった。その上、裏にキナ臭い組織の影が見え隠れするのも、普段、勘の鈍い、この後輩にも感じられた。
 世話になった、何より、イキナリ、自分に日本行きの1000万ウォンを黙ってキャッシュで差し出してくれた崔先輩のピンチの助けにならねばとの思いから方々を回ったが、どこも口裏を合わせたかの様に、「この不景気がね~」と、ビタ一文ならぬ一ウォン(10銭弱)すら貸してくれず、アリラン・プレスリーは仕方なく街をブラブラするうち、フと目に入った"電話1本で、ご自宅の玄関まで、自家用自動車にて、即刻上限10億ウォンまでお届けします"の看板に記されたテレフォン・ナムバーのひとつひとつの番号に目をやりながら、携帯の数字を押した。
 そこが、当然とはいえ、なかなかアコギなところで、日本へ渡るまで10日をきったところ、金を借りて僅か5日かそこらで1500万ウォンは3000万ウォンに膨れ上がった。

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根本敬※ この写真はイメージです。

根本 敬 NEMOTO Takashi

1958年6月、東京生まれ。1981年、異色のコミック誌『ガロ』(故・長井勝一氏編集)で、漫画家デビュー。以後、特殊漫画家を自称。音盤制作、文章、映像と漫画以外の表現を仕事としつつ、尚も漫画家を名乗るのが“特殊漫画家”たる由縁である。主な漫画作品に『生きる』、『豚小屋発犬小屋行き』、文章作品に『因果鉄道の旅』、『真理先生』がある。最近、蛭子能収氏、佐川一政氏らとハッテンバ・プロダクションなるものを設立し、ある企みを抱いている。