生まれてはじめて見ました。
四月某日 晴
なんとなく、重い。気持ちが重いのか、体が重いのか、よくわからないのだけれど、重い。
と感じはじめて、今日で約一週間。新型コロナのもとでの生活が、自分の精神をむしばんでいるのかもしれない。
繊細な自分。と思いながら、久しぶりに体重計に乗ると、前にはかった時よりも三キロ体重が増えている。
夜、自分に向き合って、自分と対話。
――あなたは、気持ちが弱っていますか? そのために食欲がなくなったりしていますか?
――いいえ。
――あなたはむしろ食欲があり、そのうえ元気いっぱいですか?
――......どちらかといえば、はい。
――あなたはその元気を持てあまし、いつもよりもつい食事の量が多くなっていますか?
――......はい。
自分と向き合うつらさをしみじみ感じながら、「繊細な自分」という言葉を心の手帳から消し去り、かわりに、「シャチはのしかかって獲物をしとめる」(昨夜「ダーウィンが来た!」で知った豆知識)と、書きこむ。
四月某日 晴
駅ビルのスーパーマーケットへ買い物に。
途中にある大型家電の店の前の歩道に、女性がしゃがみこんで電話をしている。
「痴情のもつれなのよ、うん、痴情のもつれ。だからぁ、痴情のもつれが」と、大声で電話の向こうの誰かに向かって繰り返している。どうやら、相手が「痴情のもつれ」という言葉を理解してくれていない様子。
しまいに女性は立ち上がり、
「あのね、チジョウノモツレ。チ・ジョ・ウ・ノ・モ・ツ・レ」と、スマートフォンを平らにして、さらに大声ではっきりと。
「痴情のもつれ」という言葉を実際に口にしている人を、生まれてはじめて見ました。ちなみに、小説の中では、わたしは二回ほど使ったことがあります......。
四月某日 晴
立川の美術館で開かれている展覧会に行く。
帰りの電車の中で、アベノマスクをしている男性を見る。
安倍前首相以外で、実際にアベノマスクをしている人を、生まれてはじめて見ました......。
四月某日 晴
知人がバングラデシュに住んでいるという友人と、立ち話。
「バングラデシュは、ずっとロックダウンが続いているんですって」
とのこと。
「大変だね」
と言うと、
「でも、ロックダウンが長く続きすぎて、陽気なバングラデシュの人たちのステイホームがどんどんゆるくなってきているから、この前、さらに厳しいロックダウンに移行したそうなの」
「厳しいって、どんなロックダウン?」
「ハードロックダウンだって」
その昔、バングラデシュ・コンサートを主催した泉下のジョージ・ハリスンは「ハードロックダウン」について何を思うだろうか......と、しばし放心。
でも、バングラデシュの人たちが陽気だと知って、なんとなく嬉しいです......。