日記6

5月某日



遂に人を家に招くことになってしまった。
しかも夕方に来るらしい。

夕方に人が来る→お腹が空く→食べ物でもてなす!?

食べ物でもてなす!!!
食べ物でもてなすのか!!!

たった一品のシンプルな料理をつくるだけでも失敗している私が、
味だけでなくビジュアルやプレゼンテーションを含めての総合力が試される
おもてなし料理でサクセスできるとは到底思えない。

いっそピザでもとるか。
デパ地下惣菜でお茶を濁そうか。
いや、鍋ならいけるか。
何月だと思ってるんだ。

葛藤の日々に迫り来るリミット。
しかしいつだって救世主は現れるものである。

知り合いの料理家さんから料理教室の案内が届いたのだ。
その内容は「いつも以上にグッと簡単で一瞬で出来上がる洋風料理たち」とのこと。
しかもその日程が、もてなしデーの昼間とある。

これだ......!と思った。
ここで学んだことを即日完コピすればきっとなんとかなる。

そして来る当日。
来訪予定時間の6時間ほど前、私は料理教室へ出向き、
誰よりも必死になりながら
スプラウトとタコのミントサラダ(うまそう)、
焼き菜の花とオレンジのサラダ(うまそう!)、
マッシュルームとイタリアンパセリのサラダ(うまそう!!)、
コンフィ牡蠣とモッツァレラのオムレツ(うまそう!!!)
羊の煮込みと野菜のクスクス(うまそう!!!!)を習得した。

解散と同時に私はスーパーに走り、
全く同じ材料を揃え、
記憶の鮮明なうちにキッチンに立ち、
料理家の彼女を憑依させんとする集中力で
見目麗しく献立のバランスに優れたもてなし料理群を完成させていたのである。

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どやー!

自 分 の 料 理 と 思 え な い !

案の定、客人らは驚きの表情を浮かべ、
「全然底辺じゃないじゃん」と
100点満点の感想をこぼし、
おいしそうに料理を平らげてくださった。
付け焼き刃のもてなしレシピで
なんとかその場を凌いだ私。
料理教室はまじでドーピングだ。

しかもその1週間後にまた来訪者があり、
私は懲りもせず、
全く同じものを作った。

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習ったことしか私はできない。


5月某日



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このあと吹きこぼれます、
紅茶専門店テテリアのCTCミルクティ。
ちょっと目を離すが頻発しすぎて辛い日々です。
ちょっと目を離したすきに、ミルクティは吹きこぼれ、卵は凝固し、裏面は焦げる。
ミルクパンは雑誌『アンド プレミアム』に載ってたやつを買いました。
世間の推しに順従です。

参考食材:テテリアのCTCミルクティ
参考調理器:野田琺瑯のミルクパン




5月某日



さて、とうもろこしの季節ですね。
薄黄緑色の皮の隙間から淡いイエローに輝くとうもろこしを見かけるたびに初夏。
焼くなり茹でるなりして旬のおいしさを楽しもうと思ったのはいいものの、
去年のとうもろこしごはんが見事な惨敗に終わった記憶がふとよぎる。

ネットサーフィンで遭遇したそのレシピは、
"お待ちかねのさわやかごはん"のコピーと
溌剌と炊き上がった自然光写真が実においしそうで、
「これこそ、マイファーストとうもろこしごはんにふさわしい!」
と、一目見て強くときめいた。
レシピの選択はほとんど恋だ。

しかし、その恋は盲目であった。

始める前に注意深く比較するべきだったが、
そのレシピは混ぜご飯スタイルを採用しており、
とうもろこしをいれて炊き上げるだけのスタンダードスタイルと違って
作業が一段と煩雑になる。

とうもろこしを茹でて焼いて醤油で味をつけ、
さらにはミョウガや大葉などの薬味を刻んで、
しかもそれを水にさらしたりなんだりした後に、
混ぜ合わせなければならないのだ。

水、さらしたくねえええ。

つい、そう思ってしまうのだがレシピは聖書で自分の中に神はいないのだから従うしかない。

私は「水にさらす」という言葉が嫌いなのだ。
水にさらす、ということは、水を切ることまでもがセットであって、
余計なボウルや水切り用のザルまで登場させなくてはならない。
その5文字でどれだけの手間が増えるのだ。
そのくせ効果はわかりづらい。
なんなら水切り自体が下手なので、食材が余計に水っぽくなったり、
水分を奪いすぎてしまったりと、マイナスの効果を与えている気すらする。

こうしてレシピ制作者からの
(私からしたら)細かいリクエストに応えるうちに、
だんだんと疲れてきて、出来上がる頃にはイライラ。

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しかも季節の味がしなかった(醤油味を濃くしすぎた)。

とうもろこしの味を堪能したかっただけなのに
どうしてこうなったんだろう。
初めてなのにどうしてこのレシピを選んだのだろう。
まるで選択のセンスがない。
生のとうもろこしに酒と塩を合わせて炊いた
普通のとうもろこしごはんから始めるべきだった。

その反省を生かして今年は普通のとうもろこしごはんをやってみました。
土鍋を開けた時の湯気と共に立ち上る甘い香りがたまらず深呼吸。
お米がつやっとふっくら炊き上がり至福のビジュアルに勝利を確信したのも束の間、
とうもろこしの甘さと共に、ガツンと酒の匂いが鼻を抜けた。

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あれ、お酒入れすぎたか。

というのも、とある和食の料理人の方が
「炊き込みごはんは、お酒多めがいい。うまみが増すから」
と言っていたのを覚えていて、つい実践してみたくなったのだ。

でもどうやら多すぎたらしい。
とうもろこしのみずみずしい香りの横から酒臭いおやじが終始ちょっかいを出してくる。
ウザい。ウザすぎる。

食べられないことはないが、この炊き上がりは失敗の域に入るよな。
と、小さく落ち込んだ。
どうしていつもちょっとずつ間違えるのか。

悔しくて翌日にも再チャレンジして、
ようやく理想の味にたどり着いたとうもろこしごはん。
底辺は3回目でようやく普通のおいしいにたどり着けるらしい。

その夜、お風呂でシャワーを浴びた瞬間、
とうもろこしの香りがふわんと漂った気がした。
毎日食べ続けると、自分からも旬の香りが立ち上るのか?
思い違いかもしれないけれど、なんだか少しときめいた。