第6回 気功の好転反応

 「ヨガブームの次は気功が来ても良いと思うんです」
と気功をはじめて3年の美女が言うのを聞いた時、私もそのムーブメントを応援したいと思いました。言われてみれば、ヨガではプラーナという気を取り入れたりするので、気を集めて練る気功と共通するものがあります。ヨガはセレブが次々と参入し、おしゃれなイメージが定着していますが、気功はもっとガチな感じです。そのせいか、いまいちブレイクしきれていないようです。
 以前取材した有名な先生の道場では、先生がちょっと手を動かすと、皆がバタバタ倒れて微動だにしなくなる、という驚きの光景を目にしました。「こうやって遊んでいるんです」という先生の陰陽が入り交じった笑顔が忘れられません。気功に集まる人々は年齢層が高く、健康に気をつけている人々、という印象でした。Tシャツやスウェット姿でおしゃれ感は薄かったです。
 先日はまた別のカリスマ的気功師の先生が開いている気功教室の体験レッスンを受けに行きました。費用は3000円と結構お手頃です。参加者は約10人。男女半々で、年齢層は高めです。
 最初にただ静止する、という気功を行いました。体を長時間静止させるのが苦手で、急に体が緊張してこわばったりするのですが、なんとか美人の先生の声の誘導に集中し、平静を取り戻しました。足は肩幅くらいに開き、体の力は抜いてただ立っています。現代人の生活で同じ場所にずっと立ち続ける、ということはなかなかないので意識しだすと違和感を覚えます。パーティーにしたって、ずっと立っているように見えて料理を取りに行ったりしています。すごく長く感じた立っているだけの時間のあと、手を上下に動かすという気功に移りました。下腹部の丹田(たんでん)のあたりに手を重ねて置き、暖かい気を感じたら、その気のボールを両手で顔の前に上げて、また下げて、と繰り返しました。だんだん手の中にふわっとした感触を覚えてきました。意外と気のボールはすぐにできるようです。
 「顔の前で手をとめて、額に気のボールを入れてください」と、先生は私の気に手を添えました。その時、なぜか自分の気のボールに対して所有欲を抱いてしまいました。自分の気のボール、誰にも触られたくない、という......。バッグやスマホを取られたくない、というのと近い、大切な所有物という思いが芽生えていました。そして気付いたのは、こうやって自分の気が、服とかバッグとか物にくっついているから、物を捨てられなくなるのだということ。自分のエネルギーを失いたくなくて、愛着だけでない執着心が芽生えるのでしょう。それは自分のエネルギーが減ってしまうという思いがあるから。こうして気は生きている限り自分で作り出せるとわかれば、過去の自分の気が惜しいとか思わなくなって、断捨離も進むように思います。
 そんなちょっとした発見もあった有意義な気功教室。後半は、観音気功というちょっと難しい気功を習いました。手で蓮の花を作るという優雅な所作。「いいですね、上手です」と美人の先生がほめて鼓舞してくれます。ヨガにまけないエレガントな振り付け。気功のポテンシャル感が高まります。
 しかし最後に、気功のポテンシャルが別の方向性で爆発しました。レッスンのあと、気功のカリスマの先生が「合気」といって皆に気を送ってくださる流れになりました(そう考えると3000円はコスパ高いです)。
 「目を閉じていると効果が高まります。最初立っていて、座りたくなったら座ってください。もし動きたくなったら自由に動いてください」とのことで、動くとは? と思いながら、静かに立ちました。薄暗くなった部屋で先生の霊気みなぎるシルエットが浮かび上がります。何か暖かくなってきたような......。
 目を閉じていたら、しばらくして横の方で「シャカシャカ」という音がしてきました。つい薄目で見ると、同じ列の男性が激しく上下に振動しています。これが気で勝手に体が動く現象でしょうか。私も何か動いたりしないかなと思い体に集中したら、手がふわっとゆっくり上がっていきました。しかしこの道場ではそんな些細な動作は動きのうちに入りません。
 「バタバタバタ!」という大きな音がしました。どうやら横の人が地団駄を踏んでいるようです。さらに、「バンバン!」「パンパン!」という激しめな音があちこちから聞こえてきました。自分で自分の体を殴ったり叩いている人が何人もいるようです。ちょっと涙が出てきたのは浄化作用でしょうか。その間も先生は体を軽くゆらめかせ気を送っています。そして「バンバン!」と激しく体を叩く周囲の人々。自罰的なタイプが多いのでしょうか。顔や体など肉体を直接ベシベシ叩いている人もいます。さっきまでのおとなしそうな方々が「あばれる君」「あばれるさん」に豹変するとは。
 しばらくして、ななめ前から激しい嗚咽(おえつ)、もう慟哭(どうこく)と言ってもいいくらいの声が聞こえてきました。「ぅぅぅ......。あぁああああ!」薄目を開けると、四つん這いの女性が号泣していました。「うぁああーん。あぁぁぁ」動揺してはいけないと思いながらも、生で聞く人間の号泣の声の影響力は大きいです。これも心を平静に保つ修行なのでしょうか。
 「ぐああぁぁ、グフッ、ゴホゴホグゲゲゲ」嗚咽から嘔吐(おうと)しそうな感じになってきました。聞いているだけで苦しくなってきます。一口ゲ◯がこみ上げてきました。
 「バンバンバン!」「ペチペチ!」さらにあちこちから体や頬など自分でスパンキングする音が。「ググググ!グオーグオーグホ!!」激しく叩く音と内臓を絞り出すような音の阿鼻叫喚(あびきようかん)の不協和音。目を閉じて座りながら、同調しないように必死でしたが、音が脳に入ってきて抵抗できません。
 「グオーゴエーー!」彼女はよっぽどたまっていたのでしょうか。そして油断した瞬間、「バンバン!」と床を叩く音、そして背後の人に時々蹴られたりしながら必死で時が過ぎるのを待ちました。意識に変容が起きたのか、誰かが自分の体を打つ「パン!」という音とともに頭の中でフラッシュが光りました。もう数時間にも思える30分の後、先生が姿勢を正し、顔や目をこするように促して、気の供給タイムは終わりました。この日、気になっていた肩の痛みがほとんど治っていたので、先生の気の霊験を感じました。
 しかし、無防備な半覚醒状態で知らない女性の泣き叫ぶ声のヴァイブスを浴びたせいか、その夜寝ていたら「ウグググ......ググ...」という自分のうなり声で目覚めました。夢は友人にハブにされる悪夢的な内容で朝から体が重いです。もしかしたら私も自分で自分の体を叩くべきだったかもしれません。あの行動は邪気が入らないように自己防衛するためだったのではないかと、あとから思いました。大きな音を鳴らすと悪いものは寄ってこれないと言いますし......。初心者なので勝手を知らず、邪気をもらってしまった感が。三日ほど悪夢にうなされました。それも浄化だったのでしょうか。
 でも、ヨガでは得られない相当刺激的な体験ができました。日常に退屈したらまた受講するかもしれません。気功は「おしゃれ系」というチャラチャラした枠にはおさまらない、「畏れ系」でした。
 

●レベル
☆5つ

●口癖
「丹田に力を入れて......」
気功系の人はとにかく丹田という下腹部のポイントを重視します。さらに「肛門を締めてください」とセットで行うことも。

●仲良くなる方法
「良い気を感じる」と相手をホメれば仲良くなれます。「今、風が吹いたような感じがした」という表現もおすすめです。

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好転反応の気功教室とは別の教室ですが、先生がちょっと手を動かしたら生徒さんがバタバタ倒れて微動だにしなくなるシーンを目撃したことがあり、衝撃的でした。

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