第10回 性魔術へのいざない

「この中に、秘密の扉を開けないとならない人が3人います」。出版社の女性が集まったスピリチュアル系の本の出版イベントにて、突然言い渡された上からの通告。スピリチュアルメンターのあべけいこさんにチャネリングで降りてきたメッセージです。それまで楽しくトークしていた場に、緊張感が走りました。学校で、先生に当てられまいと下を向いていた過去の自分の姿がフラッシュバックします。でも予感は現実のものとなり、あべさんごしに高次元の存在に「なめ子さんの扉を開けたいです」と言われてドキッとしました。
「パンドラの箱が空いたらやるしかありません。秘密の石の門を開くのです」
 たしかにガードが固く、心に石の門はある気がします。高次元の方々にはお見通しです。
「あなたは過去生でアルクトゥルス星人でした。イエス・キリストやマグダラのマリアと同じ星です。イシスやイスキリとも関係があります。あなたには何が本当かわかっているはずです」
 畏れ多くも救い主と故郷が同じと言われてテンションが上がりました。あべさんのチャネリングは続きます。
「あなたには魔術的な能力があります。マグダラのマリアのイニシエーションやイシス信仰によって得た力です。今でも、人を罪人にしないように真髄を突き、磔(はりつけ)の刑に遭う人を十字架から降ろしても良いという空気感を作ることができます」
 それは買いかぶりすぎです。炎上が起こっても距離を置くようにしていますし......。でもそうおっしゃっていただけたのなら、これからはちょっとリアクションを試みようかと思います。
「誰もネガティブな状態にならないよう、笑いに変えることができます。あなたの内的役割は世界平和の使者となることです」
 いきなり話のスケールが大きくなってきて驚きました。たまに神社で世界平和を祈ったりするくらいですが、社会的にはほぼ無力の存在です。でも、高次元の存在いわく、ある術を使えば良いとのこと。
「マグダラのマリアに授けられた性魔力を使いなさい。あなたはそれを使えるのになぜ使わない? 今は女性性を生かせていません。中性的な自分でいれば安全かもしれません。自分の小さな世界に入っていて、本来の役割である世界平和を忘れています」
 たしかに小さな世界で満足していました。高次元の存在に女子力のなさを指摘されるとは痛恨の極みですが......。中性的なんて、言いすぎです!  と若干突っ込みたい衝動も。
「性魔力を恐れないでください。もっと世界平和のために存在感を表してください。尊い人と性魔術を行い、石の扉を開けば、あなたには戦争を止めるくらいのエネルギーがあります。性的な魅力を発信してください。マグダラのマリアの力があるのに使わないのは不条理です」
 と、叱咤激励されました。高次元の存在は人間の年齢感覚がわからないのかもしれません。えっ、この年でセックスシンボルを目指せと? と動揺。他の方は、仕事するとき自分の力を信じてください、などとわりと普通のメッセージだったのですが、私だけ性魔術を勧められるという想定外の展開に。
 気になったのでマグダラのマリアやイシスの性魔術について調べてみました。マグダラのマリアは新約聖書に出てくる、イエスに仕えた妖艶なイメージの美女。聖書にはマグダラのマリアと思われる女性がイエスの足に接吻し香油を塗るシーンが出てきます。海外で有名なヒーラーが書いた本『アルクトゥルス人より地球人へ』(トム・ケニオン&ジュディ・シオン著、紫上はとる訳、ナチュラルスピリット)の「マグダラのマリア」の章によると足に接吻するにとどまらず、イエスと深い関係になっていたとか。(昔、エロ系の漫画雑誌でそんな濡れ場を拝読したことがあります。キリスト教的にOKなのでしょうか?) 本には、イエスと出会って、運命を感じ、深い関係になったエピソードも書かれています。「私たちは愛の営みによって一緒に高次のタントラに入り、しばしば同時に二箇所にいるのを経験しました。身体は抱擁とエクスタシーを体験しながら、二人でアルクトゥルスに存在して力を伝授される儀式に参加したり」「言葉ではとても説明できないようなエクスタシーを身体と心で分かち合いながら、ともに高次元世界へと飛翔したのです」と、二人で絶頂に達しまくっているようです。昇天し高次元にイッた、ということでしょうか。マグダラのマリアとチャネリングして書かれたらしい『マグダラの書』(トム・ケニオン&ジュディ・シオン著)という本にはもっと生々しく表現されています。「互いのオルガズムの瞬間には、骨盤付近の第一チャクラから解放される快感が、私たちの身体を上昇して頭の上部にある玉座に達し、高次脳中枢を刺激しました」。波動高い系の男性はこの描写で満足できるかもしれません。
 ちなみに「イシスの性魔術」とは「性エネルギーを使って個人の意識を変容させ、脊柱基底部に眠るヘビを目覚めさせて、高次の脳中枢までのチャクラの聖なる通路であるジェッドを上昇させることで、別の世界への扉を開きます。そして脳の奥の至聖所で起こる、聖なる結婚を通して個人の意識を一体化する」ことだそうです。ちょっと地球人には何を言っているかわかりません。「イシスの性魔術」のイニシエーションが済むと、ヘビの腕輪を授けられるとか。このエピソードを読んで鳥肌が立ちました。半年ほど前、電車で目を閉じていたら、ヘビが輪になったビジョンが浮かび、「もう入ってます」という声が聞こえたのです。秘儀に参入している、という意味でしょうか。今は女性ホルモン不足な私も過去生では性魔力を自在に操っていたとか......。高次元からのメッセージに従い、老体に鞭打って、見苦しくもセックスアピールに励まないとならないのでしょうか。世界平和のために。でも、この本に出てくるマグダラのマリアとイエスのような、波動の高い相手を探して、性の儀式を行わないとならないとしたら......。脳内のサンクチュアリで「聖なる結婚」をする相手、人間の男性ではちょっと思い浮かびません。ダライ・ラマ級の人でないと......と、いきなり世界平和プランは頓挫しそうです。また重い石の扉は閉じられ、閉店休業になってしまうのでしょうか。
 アルクトゥルス星人が意外と好事家なことはわかりました。他のスピリチュアル系の本などでは性についてどんなことが書かれているのでしょう。金星人という女性の本、『金星人オムネク 地球を救う愛のメッセージ』(徳間書店)には、金星(アストラル次元)での男女の愛の儀式についての記述があります。パートナーと愛を宣言し、断食を経て、三日目にキス。軽く身体に触れ、手を合わせてお互いのエネルギーを感じます。そして服を脱いで横たわり、お互いに相手の身体に手をかざして数センチ離してエネルギー愛撫。オイルでお互いにマッサージし合うという長々とした前戯のあと、ようやく愛の交歓をするそうです。金星人はじらし上手です。
 唐突に「性魔術」を勧められたことは、スピリチュアルと性について少し考える良いきっかけとなりました。スピリチュアルや聖なる世界に入る人は、性的には慎まなければならないという風潮があります。性エネルギーはコントロールするのが大変です。ヨガでいうクンダリーニのエネルギーは適切な指導者がいない状態で自分でいじるのは危険とされています。また、誰かに強い性的な欲求を持つとそれは執着となり、霊的な進化の妨げになってしまいます。他の宇宙人のように性エネルギーを変容させるのは地球人にとっては上級テクすぎて難しい気もします。瞑想をしてそのような欲求をちょっと離れたところから観察し、流していく、というのが良いのかもしれません。
 スピリチュアル界の男性に性的なものを感じたことはほとんどないのですが、セミナーやワークショップのあとに、ハグしてたたえ合う、という場面に遭遇することがたまにあります。スピリチュアル系のおじさま方はもう達観していて、ハグでエネルギーを交歓するくらいで満足できる域に達しているのかもしれません。相手の業や運気の影響を強く受ける粘膜接触と比べて低リスクです。ハグも性エネルギーの発散法の一つです。
 または、神様にあふれる思いをぶつける、という方法もあります。修道女の本などを読んでいると、祈りによって神様への愛が超絶に高まった状態を「精神の飛翔」「恍惚」「脱魂」といった言葉で表現されていて官能的でもあります。「十字架ってセクシーだわ。だって裸の男がついているのよ」というマドンナの名言がよぎります。日本人の場合、神社参拝のブログなどで、エネルギーに敏感すぎて、表現がすごいことになっている女性をたまに見かけます。「とてつもなく強い力がきた~っ ! ピクピク......」「荒れ狂うようなエネルギーでどうにかなってしまいそう~」「体がぐるぐるする~」「どれだけすごい神様なの? はぁはぁ」など、濡れ場の擬音のようなセリフが。神様や仏様なら、人間のどんな念も受け止めて浄化してくださると信じています。どうか煩悩だらけの人間をお許しください......。

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