第7回「各種のポイントを美しく力強く使いこなす問題」
日々の生活の中には、いろいろな種類のポイントがあふれています。クレジットカードのポイント、デパートやスーパーのポイント、家電量販店のポイント、飲食店や洋服屋さんのポイント、はたまた飛行機のマイル……。
上手に貯めればけっこうオトクなのはわかってはいますが、話はそう簡単にはいきません。けっこう面倒という問題に加えて、目の色を変えてポイントを貯めることに対する抵抗感があったり、妙な見栄を張ってしまったりなど、さまざまな困難や葛藤が横たわっています。
そのくせ、ポイントを貯めそこなったりすると、実際の損害以上に激しい絶望感に襲われがち。知らないあいだに有効期限が切れたポイントに対する未練や後悔の大きさも、理屈では説明できません。私たちの日常は、ポイントによってかなりの部分が振り回されていると言っていいでしょう。
そんなわけで今回は、ポイントを使いこなすための大人のスタンスや態度を追求してみたいと思います。たとえ己の弱さや醜さと対峙することになったとしても、勇気を振り絞って、この難敵に立ち向かいましょう。大人としてのポイントを上げるために!
彼女の前で唐突にポイントを獲得した
たとえば、デートの流れで彼女の部屋に向かう前に、コンビニに立ち寄ったとします。気前よく「プリンも買おうか」なんて言ってカゴに入れて、自分が払うのが当然という顔をしつつレジへ。すると店員のおにいさんに、
「ポイントカードはお持ちですか?」
と聞かれました。実は持っています。ここで見栄を張って「い、いえ、持っていません」と答えても、後悔が残るばかりで太っ腹に見えるわけではありません。素直に差し出して、ポイントを付けてもらいましょう。
ここまではいいのですが、問題はそのあと。セコイ男と思われたくないからといって、
「べつに、ポイントが欲しいから、ここのコンビニにしたわけじゃないからね」
なんて言ったら間違いなく逆効果です。
「たまたま持っててラッキーだったよ」
これも、やや微妙。「ポイントなんてどうでもいい」という態度を強調すればするほど、執着している気配が強調されます。
かといって、開き直って、
「さっきの買い物で15ポイント貯まったから、15円得しちゃった。ラッキー!」
などと具体的な額を口にすれば潔い印象を与えられるかというと、けっしてそういうわけではありません。この場面では、
「最近は、コンビニもがんばるよねー」
そんなふうに、ポイントに対する自分の思いではなく、話を業界全体に広げてしまうのがベスト。あるいは、
「こういうのって、けっこう嬉しいよね」
と、ポイント全般に話を広げて小さく喜んでおくのも無難です。つい欲張って、そう言ったあとで「結局、使わないで無駄にしちゃうんだけどね」と付け加えたくなりますが、たとえ実際にそのとおりでも、カッコつけている印象を与えるだけなので、グッとこらえましょう。
ポイントについて語るときは、距離を置こうとしすぎても、親近感を示しすぎても危険。絶妙の距離感で語れて初めて、ポイントとともに彼女の好印象も獲得することができます。
無駄にしてしまったポイントを活用する
友達何人かとカラオケボックスに行ったときに、そのチェーンのポイントカードを以前に作ったけれど今日は持っていないことを思い出したとします。そんなときは、ショックを自分の胸にしまっておくのではなく、
「あっ、オレ、ここのポイントカード持ってたんだよなあ」
と、ちょっと悔しそうに言ってしまいましょう。続けて「ま、今日はいいか」と呟くことで、自分はもちろん全員が、ささやかな贅沢気分やお大尽気分を味わうことができます。
ただし、あまりにも激しく悔しがってしまうと、セコイ印象が強調されすぎて、みんなを悲しい気持ちにさせかねません。「再発行してもらったほうが得かな」と騒ぐのも控えたいもの。目先のポイントにこだわるのではなく、獲得しそこなったポイントを逆に活用して、その分以上の恩恵を獲得してしまうのが、大人の貪欲さであり、美しいマネー力です。
あるいは、財布の奥から出てきた喫茶店のポイントカードを見たら、もうちょっと貯めれば「500円割引き」だったのに、うっかり有効期限が過ぎていたとします。そんなときも、ひとりで悔しがってすぐに捨ててしまうようでは、大人としての粘りが足りません。
そのカードをふたたび財布に戻して、しばらくチャンスを待ちましょう。同僚や友達、あるいは彼女とお茶を飲んでいるときに、さも今まさに発見したようなフリをします。中をチラッと見ながら、
「しまった、有効期限が切れちゃった」
と、アッサリした口調で言うことによって、人間としての器の大きさを印象付けることができるはず。ま、本当に器が大きい人はそんな小細工はしませんが、少なくとも印象付けた気にはなれます。よかったら、一度と言わず、同じカードを使って、相手を変えて二度、三度やってみてください。
石原壮一郎
1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、93年に『大人養成講座』でコラムニストとしてデビュー。独特の筆致とスタンスが話題を呼び、以来、日本の大人シーンを牽引し続けている。
主な著書に、『大人力検定』『大人力検定DX』(文春文庫PLUS)、『父親力検定』(岩崎書店)、『30女という病』(講談社)などがある。本連載では、「お金」という大人が避けて通れない難問に真っ向から挑み、このややこしい大人社会を生き抜くためのお金力を養うための画期的なヒントを浮かび上がらせていく予定。
カラスヤサトシ
1973年大阪府生まれ。会社員の傍ら漫画を執筆、95年にデビュー。03年から「月刊アフタヌーン」の読者ページの欄外に、身の回りで起こったおかしな出来事や思い出をエッセイ風に紹介した四コマ漫画・「愛読者ボイス選手権 特別版」を掲載、その独特の作風が反響を呼び、06年には連載ををまとめた単行本『カラスヤサトシ』(講談社)を出版(現在3巻まで発行)。その後『萌道(もえどう)』(竹書房)を出版。
本連載では、会社員生活とフリー生活で培った金銭感覚をもとに、独自の視点でお金にまつわる諸問題に挑む予定。