第14回 「友達の思い切った散財をどう称えるか問題」

 人それぞれ「お金をかけるポイント」は違います。他人から見れば「なぜ、そんなことにそこまで......」と思うことに、惜しげもなく、あるいは無理しながら、たくさんのお金をつぎ込んでいるケースは少なくありません。
 どんなに理解を超えていても、こっちに迷惑がかからない限りは、言ってみれば本人の勝手です。友達がそういう"散財"をしているからといって、とやかく言うのは筋違い。それよりも目を向けるべきは、友達がその"散財"を通じて何を求め、何を表現しているのか。そこをきちんと察知して、お望みどおりに称えてあげるのが大人のマナーであり友情です。
 お金をかけている対象が、他人から見てそれなりに価値がありそうか、明らかに無駄か。本人が、実はもったいないと思っているのか、誇らしいと思っているのか。同じ"散財"でも、その性質はさまざま。称える方向を間違えたら、せっかくの親切も台無しです。友達に満足してもらえて、出費のモトを取るために少しでも協力できそうな称え方を考えてみましょう。

どう見ても「くだらない散財」を称える

 アニメキャラのグッズを大量にコレクションしているとか、レアもののジーンズをオークションで法外な値段で落札したとか、趣味の世界は「くだらない散財」の宝庫です。本人は楽しそうですけど、他人から見れば「もったいない......」としか思えません。
 もちろん本人だって、無駄づかいだということはわかっています。いっぽうで、くだらないことに大枚をはたく自分に対して、「俺ってスゴイ」という満足感や「こんなことは俺しかできない」という誇りを抱いている可能性は大。まずは、そこをくすぐってあげましょう。
 だからといって、正面からホメるのはわざとらしすぎます。使った金額を聞いたら、
「おいおい、何やってんだよ」
 と思いっきり呆れてあげるのが、本人にとっては何よりの賞賛。「バカだねー」のひと言も喜ばれるでしょう。ただし、冷たく「バカじゃないの」と言うと、本気で軽蔑してるように聞こえそうです。
 さらにやっておきたいのが、金額を別の尺度で計算して、もったいながるという行為。
「◎万円っていったら、牛丼250杯ぐらいじゃん。うわー、もったいない!」
「△万円あれば、エッチなお店に10回ぐらい行けるぜ。あーあ、もったいないなー」
 などなど。この場合は「時給1000円で○時間分」といった現実味のある尺度ではなく、適度にマヌケな尺度を持ってきたほうが深い満足感を与えられるでしょう。
 もちろん相手は、「くだらない散財」ができる経済力を自慢したい、という一面もあるはず。ただ、ストレートに「さすが金あるなー」と言ったら、ひがんでいるようにしか聞こえません。名前の下に「力」をつけて、
「まさに○○力が炸裂してるねー」
 という言い方で感心すると、経済力だけでなく、人格や生き方など、いろんな要素を称えられた気になってくれるでしょう。

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何となく「意味がありそうな散財」を称える

 結婚相談所に入会して何十万円も払ったり、ウクレレを習い始めて高いウクレレを買ったり、彼女の誕生日にブランドのバッグをプレゼントしたりなど、何となく「意味がありそう」に見える散財もあります。
 明らかにくだらない散財の場合は、本人は「散財する自分」に酔っている節がありますが、多少は意味がありそうな散財だと、むしろ話がややこしいかも。「仕方ない」と自分に言い聞かせつつ、心のどこかで「もったいなかったかな......」という迷いも抱いています。
 そういう心理状態にある相手に対して、率直に「うわー、もったいない」と言うのは、ちょっと残酷。本人の不安を打ち消すように、
「確かに高いけど、(それで結婚できれば、それでウクレレが上手になれたら、それで彼女が喜んでくれれば)安いもんだよ」
「きっと、払った分だけの値打ちはあるよ」
 などと、なるべく明るい口調で言ってあげましょう。まあ、まったくの無駄な出費に終わる可能性も十分にありますが、先回りして、
「少なくとも今の時点で、夢を買った満足感を味わっているわけだから損はないよ」
と言ってあげるのは、大きなお世話です。
 また、迷いながらも、本人は「きっと意味がある」と信じて大枚をはたいているだけに、その判断力や決断力を称えておくことも大切。
「思い切って、ドカンといったねえー」
「そういうふうに使ってもらえて、きっとお金も本望だろうねー」
 驚きと納得を織り交ぜながらそんなセリフで称えるのが大人の思いやりであり、散財の話を聞かされたものの義務です。
そう言われた相手が「いやあ、やっぱりもったいなかったかもね」と首を傾げたら、それは言うまでもなく「もっと安心させてほしい」という気持ちの表れ。思いっきり力強く「そんなことないって!」と否定してあげましょう。いくら否定しても、その散財がどういう成果を上げるかは、結局のところ本人次第ですが。

【問題】

思い立って、ランニングを始めることにした。まずは形からということで、けっこう奮発してシューズやウェアをひととおり購入。そんな散財ぶりを見て、友達がやや呆れながらも「長く続けるためには必要な出費だよ」と言ってくれたが、どう返すか?

①「見ててね。モトを取るまでは、絶対にやめないから!」
②「ま、お金をかけなくたって続く人もいるんだけどね......」
③「健康のためだからこそ、見た目に気をつかわなきゃと思って」
④「さすが○○ちゃん、私の性格をよく理解してくれてるよねー」

答えと解説

 人生に散財は付きものです。何が必要な出費で、何が贅沢で、何が散財かは人によって違うし、金額の基準もさまざまですが、そこは重要ではありません。何にせよ、散財を称えたり称えられたりするのはお互いさま。どう称えるかも大切ですが、大人として恥ずかしくない称えられ方についても、ちゃんと考えておきましょう。
 さて、ランニング用品という「意味がありそうな散財」に対して、友達が大人のやさしさに満ちた前向きなコメントを贈ってくれました。その気持ちをきちんと受け止められないようでは大人の名折れです。④は確かに気持ちを受け止めてはいますが、「気をつかって言ってくれてありがとう」というニュアンスになっているところが難。ここは①のように友達の配慮に乗っかりつつ、素直に納得を深めた素振りを見せておきましょう。
 ②は、真実ではありますが、せっかく称えてくれようとした友達の気持ちを踏みにじる傍若無人なリアクション。しかも、「もっと称えてほしい」と言っているようにも聞こえます。③も、いかにも売る側の理屈にまんまとのせられている恥ずかしい言い草。ま、そういう言い方がカッコイイと思うのなら、言えばいいと思いますけど。

【答】 ①-5点 ②-0点 ③-1点 ④-3点

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石原壮一郎

石原壮一郎

1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、93年に『大人養成講座』でコラムニストとしてデビュー。独特の筆致とスタンスが話題を呼び、以来、日本の大人シーンを牽引し続けている。
主な著書に、『大人力検定』『大人力検定DX』(文春文庫PLUS)、『父親力検定』(岩崎書店)、『30女という病』(講談社)などがある。本連載では、「お金」という大人が避けて通れない難問に真っ向から挑み、このややこしい大人社会を生き抜くためのお金力を養うための画期的なヒントを浮かび上がらせていく予定。

カラスヤサトシ

カラスヤサトシ

1973年大阪府生まれ。会社員の傍ら漫画を執筆、95年にデビュー。03年から「月刊アフタヌーン」の読者ページの欄外に、身の回りで起こったおかしな出来事や思い出をエッセイ風に紹介した四コマ漫画・「愛読者ボイス選手権 特別版」を掲載、その独特の作風が反響を呼び、06年には連載ををまとめた単行本『カラスヤサトシ』(講談社)を出版(現在3巻まで発行)。その後『萌道(もえどう)』(竹書房)を出版。
本連載では、会社員生活とフリー生活で培った金銭感覚をもとに、独自の視点でお金にまつわる諸問題に挑む予定。