第10回「ギャンブルの結果の話題にどう対応するか問題」
競馬、パチンコ、宝くじなど、今日もたくさんの人が、いろんなギャンブルを楽しんでいることでしょう。そして、今日もあちこちで、ギャンブルの話題が交わされています。
「いやあ、このあいだ競馬で大穴当てちゃったよ。なんと500円が5万円!」
「昨日はパチンコで大負けしちゃった.......。つい熱くなって3万円も......」
などなど、勝った話から負けた話まで、まさに悲喜こもごも。ただ、なんせお金というややこしいものに深く関わっている話題だけに、そこには微妙な思惑や、いろんな落とし穴がつきまとわずにはいられません。
誰かがギャンブルの結果について話し始めたときに、どういう反応をするのが大人としてもっとも適切なのか。それもまた、大きなギャンブルです。ひとつ間違えると、せっかくの喜びを台無しにしたり傷口に塩を塗りこむことになったりしかねません。勝った話題と負けた話題のそれぞれについて、大人のお金力を発揮した"必勝法"を探ってみましょう。
「勝った」という話を聞くときの注意点
競馬にせよパチンコにせよ、勝った話をしてくる当人は、心の底から誇らしい気持ちになっています。たとえ、丸一日の成果が「トータルで3000円の勝ち」だったとしても、
「時給にしたら300円ぐらいだね」
といった発言は禁物。ワリに合わないことをして喜んでいる愚かさは、本人もわかっています。そんな自分を全力で肯定するために、心の中で「場合によっては3万円ぐらい負けてたかもしれない。それを思えば、結局は3万3000円も得したことになる......」とか何とか、ひじょうに都合のいい理屈を構築しています。
こちらとしても、そのあたりの心理を斟酌してあげたいところ。せっかくつかんだ3000円の値打ちを最大限に増幅するために、
「丸一日たっぷり楽しんで、しかもお金が増えたんだから、ものすごく得したことになるね」
そんなふうに言ってあげるのが、大人としてのやさしさに他なりません。首尾よくイイ気になってくれた気配が見て取れたら、
「じゃあ、それでパーッとメシでも食おう!」
と提案してみましょう。中途半端な金額であることが有利に働いて、「確かに、パーッと使っちゃったほうが次回の勝ちにもつながるかな」とか何とか思ってくれるかも。大人のやさしさは"人のためならず"です。
いっぽう、大穴を当てたとか大当たりしたとかで、「10万円儲かった」といった大きな金額の話を聞く場合は、むしろ嫉妬心を丸出しにするのが大人の思いやり。もちろん、どういう狙いでどう勝ったかという部分には興味を示して、ひとしきり武勇伝を聞いてあげた上で、
「これでまた深みにはまっちゃうから、トータルで見たら得かどうかわからないけどね」
そんな憎まれ口を叩けば、相手は優越感や満足感をさらにふくらませてくれるでしょう。「交通事故にはくれぐれも気をつけろよ」といった暴言を投げつけるのも一興。しょせんは人のお金だし、実際はそんなにうらやましくも悔しくもありませんが、めったにない幸せを満喫するために、できるだけ協力してあげるのが大人のご祝儀です。
「負けた」という話を聞くときの注意点
「負けた」という話を聞くときの適切な対応は、負けた金額によって変わってきます。数千円だったら、さっきの勝ったときと同じ理論で、
「その分、たっぷり楽しんだんだから、それを考えるとプラスみたいなもんじゃない」
と言ってあげるのが何よりの慰め。本人もそこに心の支えを求めようとしているし、「まあ、そうだよね」と同意することで太っ腹な一面を見せた気にもなれます。
数万円ぐらいの「けっこう痛い金額」の場合は、そんなノンキなことも言えません。
「人生の勝ち負けはプラマイゼロっていうから、負けた分、仕事か何かでいいことあるんじゃないの。恋愛がうまくいくとか」
このあたりが慰め方の定番でしょうか。さらに「それだけ派手に負ければ、かなり大きなラッキーがあるよ」と根拠なく励まして、勇気を与えつつ大人力を見せつけましょう。あるいは、勝ったときの憎まれ口を応用して、
「これでしばらくはギャンブルをする気がなくなるだろうから、長い目で見れば、得したとも言えるかもね」
と言ってあげることもできます。ま、明らかに無理のある慰めですけど、それだけに何とか励まそうという気持ちは伝わるでしょう。ただし「気の毒になあ」と同情を示しすぎるのは危険。その流れで「悪いけど、給料日までお金貸して」と言われたら断われなくなります。
負けた金額が、十万円を超えるような「シャレにならない大金」の場合は、多少の慰めなんて何の役にも立ちません。せいぜい「命までとられなくてよかったね......」と言ってあげるぐらいでしょうか。いたたまれない雰囲気を打開しようと、ついつい、ヘンに大物扱いしたり、「いつか取り返せるよ」と言ったりしがちですが、それはさすがに大人として無責任過ぎます。
石原壮一郎
1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、93年に『大人養成講座』でコラムニストとしてデビュー。独特の筆致とスタンスが話題を呼び、以来、日本の大人シーンを牽引し続けている。
主な著書に、『大人力検定』『大人力検定DX』(文春文庫PLUS)、『父親力検定』(岩崎書店)、『30女という病』(講談社)などがある。本連載では、「お金」という大人が避けて通れない難問に真っ向から挑み、このややこしい大人社会を生き抜くためのお金力を養うための画期的なヒントを浮かび上がらせていく予定。
カラスヤサトシ
1973年大阪府生まれ。会社員の傍ら漫画を執筆、95年にデビュー。03年から「月刊アフタヌーン」の読者ページの欄外に、身の回りで起こったおかしな出来事や思い出をエッセイ風に紹介した四コマ漫画・「愛読者ボイス選手権 特別版」を掲載、その独特の作風が反響を呼び、06年には連載ををまとめた単行本『カラスヤサトシ』(講談社)を出版(現在3巻まで発行)。その後『萌道(もえどう)』(竹書房)を出版。
本連載では、会社員生活とフリー生活で培った金銭感覚をもとに、独自の視点でお金にまつわる諸問題に挑む予定。